駅から遠い。築年数が古い。ユニットバス。一般的な賃貸では、どれも容赦ないマイナス評価(減点材料)です。家賃を大幅に下げなければ、借り手すら見つかりません。ところが、この同じ『マイナスだらけの家』を、もし『宿(民泊)』として貸し出したらどうなるか?実は、この3つの弱点は、宿泊者にとって必ずしもマイナスにはならない。それどころか、時として『唯一無二の価値』に化けることすらあるのです。私たちが北海道・洞爺湖町で直営している一棟貸しの戸建ては、普通に賃貸として貸し出せば月々の家賃は4万円ほどが限界の物件です。年間でもわずか48万円。しかも札幌から車で約2時間、最寄り駅からも遠く離れた場所にあります。その家の、2024年5月から2025年4月までの実績がこちらです。【当社の実証例】北海道・洞爺湖町の直営物件(ゲスト8名・寝室3) 年間売上: 3,229,270円 年間経費: 717,658円 年間営業利益: 2,511,612円 予約泊数: 125泊(63.3組) 1泊単価: 28,255円賃貸なら年48万円の家賃収入にしかならない『マイナス物件』が、宿として稼働させた途端、年間で251万円もの営業利益を叩き出しているのです。しかし、視点を業界全体に向けてみると、甘い話ばかりではありません。民泊の届出総数65,837件のうち、実に23,767件――約36%もの事業者がすでに撤退を余儀なくされています(観光庁「住宅宿泊事業法の施行状況」2026年7月15日時点)。同じ地方の戸建てでありながら、なぜ片方は利益を出し続け、もう片方は退場へと追い込まれてしまうのか? この決定的とも言える差は、一体どこから生まれるのでしょうか。先日、株式会社hacomono様との共催で実施したオンラインセミナー「失敗しない地方戸建て民泊の始め方」では、ネット上に溢れる「月収◯◯万円!」といった抽象的な相場論は一切排除しました。私たち現場の事業者がリアルに運営し、泥臭く汗をかいて得た実際の数値をそのまま公開しながら、その裏側にある構造を徹底的にお話ししました。本コラム前編では、セミナー前半で特に関心の高かった「物件選びと評価軸の転換」という視点から、この明暗を分ける答えを紐解いていきます。1. 賃貸の「弱点」は、宿では「価値」に変わる|見る人が変われば、評価する軸も入れ替わるまず知っておいていただきたいのは、賃貸を借りる住人と、宿を予約する旅行者では、物件を見る「目線」が根本から異なるということです。毎日の通勤・通学を考える生活者にとって「駅から遠い」のは致命的ですが、観光目的で訪れる旅行者はレンタカーなどの車移動が基本です。これだけで、物件のマイナス評価は一瞬にしてプラスへと反転します。冒頭に挙げた3つを並べると、こうなります。駅から遠い 賃貸では: 家賃が下がり民泊では: 車移動の旅行者には全く支障がなく、むしろ喧騒を離れた豊かな自然を満喫できる最高のロケーションに変わるやすい 民泊では: 車移動の旅行者には全く支障がなく、むしろ喧騒を離れた豊かな自然を満喫できる最高のロケーションに変わる建物が古い 賃貸では: 維持費が高く、設備も古い 民泊では: 地域の原風景や日常の暮らしを体験できる「趣のある古民家」として価値が付くユニットバス 賃貸では: 風呂とトイレは別のほうがいい 民泊では: 湯船に浸かる習慣のない海外からの旅行者にとって、シャワーさえ整っていればバスタブの有無は全く気にならないこの評価の逆転現象は、地方であればあるほど強烈に作用します。賃貸需要が低いために土地や建物を安価で確保できる一方で、観光需要は決して衰えていないため、宿として高単価で貸し出すことができる。この「需要と供給の歪み」こそが、地方の空き家に眠る最大のビジネスチャンスなのです。冒頭でご紹介した私たちの洞爺湖の物件も、「駅から遠い」という条件はそのままです。しかし、洞爺湖の中心部までは車でわずか5分。冬は世界的なスキーリゾートであるニセコエリアを巡る拠点として、夏は北海道の大自然を車で周遊する旅行者の中継基地として抜群の立地を発揮しています。さらに、広い庭に人工芝を敷き詰めて「ドッグラン」へと改修したところ、愛犬と一緒に旅を楽しみたい層に大ヒット。走り回れるプライベートなお庭がある一軒家は、既存のホテルや旅館では絶対に代えがきかない特別な価値となりました。Airbnbでの評価は5点満点中4.95、レビューは103件(2026年9月時点)です。物件を単なるスペックの「減点法」で品定めするのを、今すぐやめてみてください。「誰に貸すのか」を最初に定め、そのターゲットにとって何が最高の価値になるのかを逆算して組み立てていく。これこそが、地方戸建て民泊で成功するために私たちが最も大切にしているアプローチです。「誰に貸すか」を先に決める。これこそが、地方の戸建てで真っ先に取り組むべき戦略です。2. 年間経費71.7万円、その53%は清掃費|予約が入らない月は、コストも出ていかない弱点が強みへと反転したとして、気になるのはその運営コストの実態ですよね。ここで、冒頭でお示しした実証例の損益計算(PL)を、さらに詳しく分解してみましょう。【当社の実証例】北海道直営物件の年間経費(2024年5月〜2025年4月) 清掃費: 380,058円 電気: 96,000円 水道: 48,000円 灯油: 100,000円 Wi-Fi: 57,600円 備品購入: 36,000円 合計: 717,658円内訳をご覧いただくと分かる通り、年間経費のなんと53%を「清掃費」が占めています。清掃費は「1回あたりの清掃単価×チェックアウト回数」で計算されるため、予約が入って稼働が増えるほど比例して大きくなります。つまり、この事業のコスト構造はその大半が「変動費」で占められているのです。これは裏を返せば、予約が入らない閑散期にはコストもほとんど発生しないということを意味します。空室であっても毎月決まった家賃や管理費が重く重くのしかかる一般的な賃貸経営とは、構造自体が全く異なります。地方の戸建て民泊が「稼働率が一時的に落ち込んでも倒れずに持ちこたえられる」のは、このフレキシブルなコスト構造があるからに他なりません。また、このデータには本州の物件には見られない、雪国ならではのリアルな費目が隠されています。それが「灯油代」です。11月から4月にかけての冬場、月1〜2万円、年間で約10万円の灯油代がかかります。厳しい寒さに見舞われる地域では、配管の凍結を防ぎ快適な空間を保つために暖房を止めるわけにはいきません。本州向けのシミュレーションをそのまま鵜呑みにしていると、こうした地域固有の出費を見落として痛い目を見ることになります。「その土地だからこそ発生するコスト」が必ず存在する。これもまた、現場で実際に1年間泥臭く運営を続けてみて初めて実感したリアルな気づきでした。3. 同じ稼働15日でも、利益は地方が東京の約2.0倍|差がつくのは、単価ではなく家賃固定費が軽いという強みは、東京の物件と比較してみるとより一層鮮明になります。以下の表は、セミナーでご紹介した「月15日稼働」という同じ条件で試算した比較モデルです。【前提条件を固定した試算】▪️東京の戸建て 物件家賃: 350,000円 宿泊単価: 40,000円 稼働: 15日/月 売上: 600,000円 Airbnb手数料(15%): 90,000円 固定費(家賃+ライフライン): 375,000円 コスト合計: 465,000円 利益: 135,000円▪️地方の戸建て 物件家賃: 150,000円 宿泊単価: 35,000円 稼働: 15日/月 売上: 525,000円 Airbnb手数料(15%): 78,750円 固定費(家賃+ライフライン): 175,000円 コスト合計: 253,750円 利益: 271,250円売上高だけを見れば、宿泊単価の高い東京の物件が7.5万円上回っています。しかし、最終的に手元に残る営業利益を見比べてみてください。地方の物件が東京の「約2.0倍」もの利益を出しているのです。宿泊単価そのものでは東京に立ち向かうことはできません。それでも利益で大逆転が起きるのは、家賃をはじめとする固定費の圧倒的な差が、単価の差をはるかに凌駕するからです。地方で無理に東京並みの高単価を狙いに行くと、客足が遠のき苦境に立たされます。しかし、固定費さえ徹底的に軽くなっていれば、繁忙期と閑散期の波を柔軟に受け止めながら、着実に利益を蓄積していくことができます。「単価の高さ」ではなく、「固定費の軽さ」で勝負する。これこそが、地方民泊における鉄則中の鉄則です。※前提条件を固定したモデルケースです。実際の数字は物件ごとに変わります。4. 月商は最高46.8万円、最低10.9万円|地方の宿は、年で見ないと実態がつかめないここまで年間の通算データをお伝えしてきましたが、なぜ私たちが「年単位」にこだわるのか。それは、月ごとの切り売りで数字を見てしまうと、同じ物件であっても全く異なる姿に見えてしまうからです。【当社の実証例】北海道直営物件の月商の振れ幅 最も高い月: 468,279円(2024年8月) 最も低い月: 109,416円(2025年4月) 年間平均: 約269,000円最も売上が高かった8月(約46.8万円)と、最も低かった4月(約10.9万円)では、なんと4倍以上の開きが存在します。ウインタースポーツで賑わう1〜2月と、夏休みのレジャーがピークを迎える7〜8月が大きな山となり、その合間となる4月や6月は静かな閑散期を迎えます。もし絶好調だった8月の46.8万円だけを見て「これなら年商560万円超えだ!」と浮かれて事業計画を立ててしまえば、現実の年間売上(322.9万円)とのギャップに後で青ざめることになります。逆に、どん底だった4月の10.9万円だけを切り取って評価すれば、「こんな事業、やる意味がない」とせっかくのチャンスを捨ててしまうでしょう。単月の数字に一喜一憂していては、事業の本質を見誤ります。地方戸建て民泊のポテンシャルは、必ず「年間スパン」で正しく見極めてください。5. 初期費用は「削る金額」ではなく「削る順番」で決まる|先に上限だけを決めると、回収が遠のく物件の手配がついた後、開業に向けて立ち上がってくる費用はおおむね以下の7つのカテゴリーに分類されます。【開業までにかかる費用の内訳】 物件の購入費 改装費 家具の購入費 消防設備費 許認可申請費開業支援費 消耗品購入費必要な金額は物件のコンディションや地域によって大きく乱高下するため、「一般的な初期費用は◯◯万円です」といった一律の目安を提示しても、あまり実用的な意味を持ちません。「少しでも初期費用を安く抑えたい」というご相談は非常に多くいただきます。しかし、ここで多くの方が「ただコストを削るだけの落とし穴」にはまってしまいます。セミナーでは、開業の進め方を以下の2つのパターンに整理して解説しました。【削るだけの開業】初期費用を下げることだけを優先する写真や情報が弱く、予約につながりにくい体験価値や満足度が低く、リピートが増えないOTA設計がなく、露出や評価が伸びない→ 売上が伸び悩み、投資回収に時間がかかる【回収設計のある開業】回収速度を意識して投資を配分する魅力が伝わる写真と情報で予約を最大化する体験品質を高め、口コミとリピートを生むOTA最適化で露出と評価を継続的に高める→ 売上が早く伸び、投資回収が早まる両者の命運を分けるのは、投じた金額の大きさそのものではありません。「どこに優先的にお金をかけるか」という戦略が最初から設計されているかどうかです。予算の上限だけを気にして闇雲にコストを削減しようとすると、金額の大きい建築・改修費などにばかり目がいき、最終的に写真撮影やインテリアといった「ゲストの予約意欲を直接左右するクリティカルな費用」から削られてしまうケースが後を絶ちません。その結果、写真は暗く魅力に欠け、予約が入らず、投資の回収がどんどん遠のいていくという悪循環に陥るのです。大切なのは「いくら削るか」ではなく、「どの順番で削るか」です。プロのクオリティの写真、魅力的な家具、心動かす体験品質、そしてOTA(予約サイト)の最適化。これらは投資回収のスピードを加速させる重要エンジンですから、私たちはどんなことがあっても最後まで削減対象にはしません。6. 弱点が価値に変わる物件には、条件がある|親子3世代・ペット連れと、80㎡・駐車場・差別化ここまでお読みいただき、「なるほど、では自分が検討している物件ならどうだろう?」とイメージを膨らませている方も多いのではないでしょうか。地方で民泊を始めようとする際、多くの方が近隣ホテルの宿泊料金をリサーチしがちです。しかし、実はこの比較自体があまり意味をなしません。一般的なビジネスホテルは1〜2名での宿泊を想定して作られていますが、私たちの一棟貸しを利用するのは6〜10名規模のファミリーやグループ客だからです。これだけの大人数をホテルで賄おうとすれば3〜4部屋に分かれてしまい、合計料金も高額になる上、全員で集まってゆったり寛ぐリビングのようなスペースも確保できません。つまり、最初からターゲットとする客層が全く重なっていないのです。比較すべき真の競合は、同等の人数を収容できる他の一棟貸し施設です。それを踏まえた上で、私たちが物件選定の基準として設けている「チェックリスト」をご紹介します。お手元の物件と照らし合わせながらご覧ください。【ターゲット設計】親子3世代・グループ旅行 ・ペット連れ【成功に導く物件の3大条件】80㎡以上で3ベッドルームを確保できる 駐車場が近くにある(コインパーキングでも可) 眺望、立地、庭、内装などで差別化ができる賃貸の基準である「駅からの距離」「築年数」「お風呂の仕様」といった要素は、私たちの優先順位の上位にはありません。それらよりも上記の3条件を軸に見極める方が、事業としての成功確率は格段に高まります。7. 物件選びと運営設計は、分けて考える本コラムでは物件選びの視点を中心にお伝えしてきましたが、どれほど優れた物件が見つかったとしても、それだけで勝手に利益が生まれるわけではありません。業界内で叫ばれる「約4割が事業廃止」という厳しい現実は、単に物件の条件が悪かったからだけではないのです。私たちが現場で目にしてきたのは、ポテンシャルの高い物件でありながら、開業後の運営設計でつまずいてしまっているケースでした。リスティング写真のクオリティ、オープン初動3ヶ月間の集客戦略、緻密なプライシング(価格設定)。これらは物件選びとは全く別のプロフェッショナルな領域として、しっかりと切り分けて設計・運用していく必要があります。8. 地方戸建て民泊に関するよくある質問Q1. 駅からかなり離れた物件でも、本当に予約は集まるのでしょうか?A. ターゲットを「車移動の旅行者」に絞り込めば、駅からの距離は致命的な欠点になりません。現に私たちの洞爺湖の直営物件も札幌から車で約2時間の立地ですが、年間売上322.9万円、営業利益251.2万円を達成しています。ただし、敷地内や近隣に「確実な駐車場」が確保できることが絶対条件となります。ここだけは代替が効きません。Q2. 地方の戸建て民泊だと、月々どのくらいの売上が見込めますか?A. 売上は「月単位」ではなく、必ず「年単位」で判断してください。私たちの事例でも年間売上は322.9万円ですが、月別では最高46.8万円から最低10.9万円まで、4倍以上の季節変動があります。繁忙期の売上を12倍した楽観的な計画は必ず破綻しますのでご注意ください。Q3. 築年数が古い建物や、ユニットバスの物件だとやはり不利ですか?A. コンセプトとターゲット設定が噛み合っていれば、決して不利にはなりません。大勢で過ごすグループ旅行では「広さや集まれるリビング」が最優先され、お風呂の仕様の優先度は下がります。また、インバウンド客にはバスタブ自体を必要としない方も多くいらっしゃいます。ただし、「古さ」と「不衛生」は別問題ですので、清掃と清潔感の維持徹底は大前提となります。Q4. 初期費用を限界まで抑えるにはどうすればいいですか?A. 「ただ費用を削ること」を目的にしないことが最大のポイントです。集客の要である写真撮影やインテリアの費用を削減してしまうと、予約が入らず回収期間が長引く原因になります。予算の上限を決める前に「絶対に削ってはいけない項目」を整理しましょう。具体的な費用感は物件の状態により異なりますので、個別のご相談をおすすめします。民泊開業をお考えの方へ私たち「Coco Paku」は、北海道や長崎での直営民泊のリアルな運営データをもとに、物件の選定から許認可、収支シミュレーション、そして開業後の運営代行まで一貫してサポートしています。「自分の持っている空き家でも勝算はあるか?」「検討中のエリアで利益は出るか?」など、本記事でご紹介した実数値を参考にしながら、まずは無料相談にてお手元の物件情報をお聞かせください。▼無料相談はこちら 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